会長挨拶

 日本には、世界に誇る優れた木造建築が数多くあります。これらの建物が、永い時を経て存続してきたのは、地震や台風に耐える得るような造りであり、維持管理材料や構造的な面など様々な技術的蓄積が行われてきた結果です。

 私たちは、この建築技術の総体を伝統構法と名付けます。この伝統構法は、永い間に亘って広く全国各地で実践され、地方毎に特徴有る町屋や農家を沢山創り出し、日本の住文化の根幹をなしていました。それらは江戸時代まで続いてた循環型社会環境に根付いた家造りでした。高気密高断熱などという性能はありませんでしたが、自然素材を用い、無公害、省エネルギーで地球温暖化にも影響を及ぼさず、シックハウスなどと云う言葉とはおよそ無縁なものでした。


 明治時代になって社会は、西欧の諸技術に比べて、日本の循環型の社会環境を培う様々な技術や文化を、遅れたものと見做して専ら西欧(近代)化を目指しました。その結果、伝統的な技術や文化の多くは社会の変化にしたがって消滅してしまい、今日では心ある職人達が細々と継承している状態です。先人の叡智の結晶である伝統構法も同様でした。特に昭和25年に制定された建築基準法の制限の下では、筋違を使うことが規定され、棟梁たちは伝統構法によって住いを造ることも、後継者を育成することも出来ない状態になりました。この様な状況を何時までも放置したままでは、数多くの歴史的な名建築を世に送り出してきた伝統構法が失われてしまい、ひいては、わが国の文化全般の根幹を失うと言っても過言ではありません。

 高度成長時代が終わりを告げた、新たな社会の在り方を模索する中で伝統構法の価値が見直されるようになりました。半世紀以上に亘って筋違金物一辺倒できた建築基準法に於いても、伝統構法を認める方向で法的整備も行われ始めています。現在では、伝統構法のように複雑な架構であっても解析することができる様に技術が進んできています。この技術により、伝統構法のメカニズムなどを解明する日は近づいていると云えます。

 しかし、この半世紀の間に途絶えていたに等しい伝統構法を復活させるためには、その歴史的な来歴や経験を踏まえて、技術な面で伝統構法を正しく理解し、その活用の途を切り拓かねばなりません。また、伝統構法による住宅造りの健康面での効能のみならず、循環型社会における伝統構法の在り方までも、的確に捉えておかなければなりません。

 本会は伝統構法の復権をめざす研究者や技術者(設計や施工に関わる大工たち)や、伝統構法に理解を有する一般の人たちと共に、伝統構法の保存と継承に資する活動をしていくことで、日本国民の豊かな住文化の発展に寄与することを趣旨とし、設立しました。本会は、伝統構法の正しい評価と、その汎用的設計・施工体系の確立を目標とし、その為に資料の蒐集、実験・研究成果の蓄積を行います。その蓄積に基づいて技術講習会や一般への啓蒙を行い、法改正を始め伝統構法復権の為、社会への働きかけを行います

伝統構法の会会長 前川 康

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